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蟻地獄

 池袋で「ちゃんとした」イタリアンを堪能した私は、本屋へ向かった。それは久々の御馳走にありつけて、ご機嫌な最中の出来事だった。

 正直特に欲しい本はなく、かといって手ぶらで帰るのも癪なので、小さいコーナーが作られていた中の一冊を手に取った。

タイトルは、『蟻地獄』

どうやら著者がインパルスの板倉さんのようで、新刊「月の炎」と「蟻地獄」文庫版の出版を記念して、コーナーが作られていたようだ。

 俗に言う「タレント本」のような紹介を受けていたが、時間がなかった私は、会計へと急いだ。

POPの「インパルス板倉推し」については、ふ~ん程度のものだった。


 私は本を読むスピードがとにかく遅い。いや、正確には飽きやすい。

どんな本でも読了するまでに最低一ヶ月はかかってしまう。しかし、この「蟻地獄」は、三日で読了した。


 まず第一に考えたのが、コント師なだけあって読者の心を「つかむ」のが上手いと思った。いわば導入部分だ。

伏線のカードは全て予想しやすく、かといって思いがけない絶妙なタイミングで顔を覗かせる。手が届きそうで届かない推理小説ほど、読者の心を掴むものはないだろう。


 第二に、全く飽きさせない。

物語の軸となるのが
「捕らわれた友人を助ける為、五日後までに三百万を手に入れる」
ことなのだが、何度も場面が変わっていく。

 迫るタイムリミットの中、無駄足を食うことさえもラストへ繋がっていたり、そもそも場面の一つ一つがわかりやすい。
頭の中で映像が自然と浮かび上がってくるそれはまさに、コント職人たる所以である。


 芥川賞を取ったピースの又吉さんしかり、芸人という職業は小説家に向いているかもしれない。何故なら、客の心をつかむ仕事だからだ。

 ミステリー初心者の私でも当てられるカードが数枚あり、かといって軸となる「オチ」のカードは最後まで伏せたまま。予想は見事に外れるが、最後の「締め」ではまた簡単なカードが開けられると共に、ふふっと笑みがこぼれた。

 こんなに短時間で読み切った長編小説は、初めてかもしれない。
目の前に人参を吊るされた馬のように、夢中で読み進めた。
吊るしたのはもちろん著者の板倉さんであり、気が付けば私はまんまと「蟻地獄」に落とされていた。

 新刊の「月の炎」は、睡眠や予定を削ってまで読書を優先してしまう恐れがある為、まとまった時間ができた時に手に取りたいと思う。文庫版が出る頃にしようかな。

 こんな偶然もあるんだな、と学んだ今日この頃でした。

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