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俺(バイト戦士) VS 老害

 日曜日。

世間が教会へ拝みに行く中、俺は壊れたままの暖房に頭を抱える。
時刻は8時15分。カードキャプターさくらクリアカード編をバイト前に見るのが習慣なのだが、もうプリキュアの時間になっていた。
 
目にくまをつけた僕はさくらに会えずうなだれるが、ママプリがよさげだったのでよしとする。なんやねんメッチャいけてるって
 
 飲食業はあたりまえだが週末は忙しさが格別だ。
だから時給が上がる。それを目当てにシフトを入れているのだ。

単純に客の数が増えるので、面倒な客も増える。
面倒な客にもレベルがある。
 
レベル1 水のおかわり(テーブル)
レベル2 子供の取り皿等の食器
レベル3 注文ミス訂正(返金)
 
これらは客の当然の権利なので、店員からしても少し面倒くらいにしか思っていないし、よほどの理由がない限りは素直に受け入れる。

    
 
だが、問題はこのレベル越してくる輩が出現することだ。
答えは簡単、日曜日だから。ブラッディサンデーなのだ。
 
かといって、毎週遭遇するわけではない。月に一度現れるか会われないか位の頻度である(忘れているだけかもしれないが)

 
 少し話が脱線するが、飲食で一番めんどくさい日は客が常に一定数居る日だ。
昼のピーク時に混むのは当たり前のことだし、夕方の謎の団体来客もまぁしょうがないとする。
 
が、一番嫌なのはぼちぼちと来客が途絶えないことだ。
うちの飲食だけかもしれないが、暇な時間はまずない。
何故なら、膨大な作業があるからだ。


当然あがりまでにカウンター補充や前補充、シンク清掃や洗浄機清掃は完了させなければいけなく、客が途絶えないと中々作業に取り掛かりずらいものもある。

シフトがきつい日は全て前を一人で捌かなければいけない(接客含め)
そんな日は、大抵日曜日だ。
 
 体育会系女子大生の金切り声を注意出来ずにいた僕は、いつものように接客をしていた。
留学生とヤベえと現実逃避を試みるも、客から逃れることはできない。


そして時は来る。
それは、僕のあがる予定時刻を10分過ぎた時のことだ。


三週間連続で15分遅刻してきた留学生を待ちながら、(マジでいい加減にしろ)接客をしていると常連客が一人。
奴は顔が片岡鶴太郎似の低身長、年齢は60代だろう。
ここではダルシムと呼ぶことにする。
 
ダルシムに注文を取りにいくやいなや奴は叫ぶ。
 
「お茶!!!!」
おいと呼ばれるのが一番頭にくる俺だが、この程度のことで気にしていたらどうしようもない。
スルースキルが鍛えられている俺は、即座にはいと答えまず撤退する。
 
お茶を注いでいたらぬるかったので、レンチンした。

ダルシムのような老害の特性は既に把握済みだ。
奴らはなにかと嚙みつきたい年頃なので、スピード重視でぬるいお茶を出したら出したで文句を言うのはわかりきっている。

そしてなにより、一往復分余分に歩かなければならない。
飲食で働くと常に効率重視で行動するようになる。それがたとえ俗にいうお客様第一でなくとも、だ。


俺は効率こそがお客様に対する最大限の奉仕だと思っている。
必ずしも自分だけが得をすればいい訳ではなく、客は皆平等なのだ。
 
 ダルシムが頼んだメニューがさっさとできるものだったこともあり、レンチンが終わると同時に調理が終了。
いよいよ提供である。


もうこの時からまた何か言われることは把握済みなので、少し緊張する。
 
「お待たせ致しました~」
 
「お茶って言ったらはやく持ってこいよ!!!!!!」
 
店内に響き渡る怒号。
テーブル席に座っておいてよく言えるなと思いながら考えた。
 
俺だって噛みつこうと思えばいくらでも噛みつくことができる。
黙らせるには警察やセコムを呼ぶのをほのめかすのが最も手っ取り早いし、お客様のご迷惑うんぬんで注意することもできる。
 
が、俺は決断するより先に口が動いていた。
 
「すいません」
 
この間わずか1秒。
スルースキルが鍛えられ、理不尽な客への対応に慣れると即座に謝罪をするのはもう反射である。
 
ダルシムのような老害は家に帰っても孤独なのが透けて見えるので、奴らは我々に構ってほしいのである。
奴らは警察のお世話になったところであやしてくれる優しいお兄ちゃんとしか思わないであろう。
むしろプラスになってしまう。


なので、俺は一言謝り即撤収。これが接客の基本である。
これで奴らにおいしい思いをさせずに済む。ざまあみろ
 
 遅れてやってきた留学生に遅刻を注意しようとするも、厨房にはいるやいなや即謝ってこられると何も言えなくなる。


そう、人はすぐに謝られると何も言えなくなるものなのだ。
これは当然老害も対象だ。
一言目に「大変申し訳ございません」マニュアルは理に適っているいるのである。


 Ozyyを聴いてハイになりながら自転車を漕ぐ俺は考えた。
 
確かにダルシムに対する解答は100点満点の解答だったかもしれない。
が、俺ならそこはイキる所だろと。
自分の中の大切な何かが薄れてきた気がした。
 
大人の階段を上ることには逆らえないと知り少し鬱になりつつも、バイブルであるコードギアスの再放送を楽しみに帰路を急ぐのであった・・・